ラテン・アメリカ政経学会

コラム

どちらが必要?発想の転換 −ブラジル投資誘致に思う

桜井敏浩

 ブラジルとの大型合弁事業経営に関わって15年、いまも民間企業の一員として毎年一度はブラジルへ行く機会に恵まれている。この間、ブラジルの変化、その国際評価は天と地ほどの違いが生じ、特にカルドーゾ政権以降、ルーラ政権の8年の間の変化の速さには目を見はるものがある。それについては、多くの識者が数多く指摘しているので、ここでは触れずに、むしろここでは基本的に変わっていない部分として、ブラジルの投資誘致について見てみたい。
 この半世紀のブラジル経済の発展に、外資が果たした役割が大きいのは論を待たず、ブラジル側も外資誘致の重要性はよく判っていると思う。資本形成の不足を補い、製造分野に留まらない技術や販売ノウハウなどをともなう外国資本の導入には、多くの開発途上国は熱心である。積極的に投資をしそうな国々に広報活動を展開することは、特に東アジアや東南アジア諸国は熱心であり、その主要なターゲットは、現在においても日本であることは変わりない。年間多くの投資誘致ミッションが来日し、投資環境についてのセミナーが開催されている。ブラジルを含めラテンアメリカからも、アジアからのそれに比べれば数は少ないが、年間十指に余るセミナーが開かれる。筆者も最近、仕事上の必要があって東南アジアの投資セミナーに参加する機会が増えてきたが、そこでそれまでのブラジル投資セミナーとの大きな違いを感じた。
  アジアの多くの国では、外資導入の専門窓口行政機関を設け、外資が入り易いよう法令を整え、さらに課税をはじめ様々な優遇策を用意し、投資セミナー会場ではそれらの詳細な説明があり、関係資料がきちんと日本語あるいは英語で用意されていて配られる。これらを基に、帰社して自社の投資プランに当てはめれば、ある程度採算予測まで含めた具体的な投資企画書がすぐにも作れそうな気がするほどである。
 これに対して、例えばブラジルの各州から来る投資誘致ミッションの説明は「ブラジルは憲法で内外資差別を無くしているので、有望なビジネス・チャンスのあるわが州市に来て欲しい」というのが基本線であり、どちらかといえば「こんな機会に出てこないと損をするのはあなた方投資側だ、投資優遇を行う用意はあるが応相談」という観があって、東南アジアのそれとは大きな差がある。ブラジル政府には外国投資や利益送金、ロイヤリティ支払いに関わる登録を定めた法令があり、中銀に登録することにより国内資本と同じ法的取り扱いを受けることが保証されるが、いわゆる外資導入法やその優遇を定めたものはない(『現代ブラジル事典』 新評論 2005年, 429頁) 。
 近年はさすがに以前のような高飛車な出方はなくなり、かなりビジネスを意識した説明になって、プレゼンテーションも格段に内容が良くなって、英語での説明も多くなった。しかし、これだけではアジア型に慣れた日本企業の担当者にはもの足りない。これを以前筆者は「アジアはコース料理型、ブラジルはアルカルト型」と例えて、ある程度進出規模を提示して投資優遇条件交渉に入るアラカルト型への対応の必要性を説いたことがある。(「交渉の妙 ブラジルの投資優遇策」」『ジェトロセンサー』1996年2月号

 基本的には、この分類は現在も当たらずといえども遠からずであろう。しかし、いまや新興国の雄として、その有望性が世界的に認められるようになってきたブラジル市場には注目せざるを得ない。交渉によって優遇条件を勝ち取るという方法は、日本企業にとって不得意であろうが、そういっている間に欧米はもとより、韓国・中国などが果敢に進出を早めていて、ビジネス・チャンスとしてのニッチはどんどん埋まっていく。やはり、アラカルト料理の選択にまで企業を挙げて踏み込まないと、ブラジルの有望性に参画する機会を逃すことになる。しかし、ブラジル側にも、投資先としては例えば日本の製造業ならまず中国等東アジアがあり、次いで東南アジア諸国があり、南アジアも大いに発展が見込まれ、他方地域協定や市場アクセスを考えればメキシコや東西欧州もあって、ブラジルは投資先の一つであると、他に競合者が少なからずあること、資源価格高騰や自国の経済成長ぶりに安住して、常に魅力ある投資先とばかりはいっていられないことを知るべきであろう。我々は得てして現状がそのまま続くという錯覚に陥りやすいが、投資国と受け入れ国いずれもが、“売り手市場/買い手市場”はいつまでも続くものではないということは認識しなければなるまい。

 

筆者紹介

慶應義塾大学法学部卒。海外経済協力基金(OECF−現JICA)で長く対中南米等 ODA 借款担当。1992年より日伯紙パルプ資源開発(紙パルプ製造合弁事業CENIBRA経営)、1999年より日本アマゾンアルミニウム(アルミ製造合弁事業 Albras経営)に在勤、2005年より中南米進出歴の長い徳倉建設(本社名古屋)特別顧問。この間、拓殖大学政経学部講師(ラテン・アメリカ経済論)、(社)ラテン・アメリカ協会常任理事ならびに(社)日本ブラジル中央協会常務理事として会報編集等担当。 「桜井ブラジル評論コーナー」