ラテン・アメリカ政経学会

コラム

創立50周年に寄せて

浜口伸明

 ラテン・アメリカ政経学会は1964年9月に設立され、今年で50周年を迎えることになりました。この設立の年というのは、東京オリンピックの開催や新幹線・名神高速道路の開通など、日本は右肩上がりの時代にあり、ラテンアメリカとの関係も、移民から貿易・投資へと中心が移っていたころです。当時ラテンアメリカでは輸入代替工業化が本格化するころかと思いますが、経済成長が著しく、しかし反面では東西冷戦の影響を受けて軍事政権が次々に誕生する複雑な状況にありました。そのような中でラテンアメリカについて一般的な概説に留まらない、政治経済のより専門的な研究を進める目的で設立されたのが本学会であります。

設立時の会長は「ダグラス・有沢の法則」で知られる東大の経済学者・有沢広巳先生、1987年まで本学会の発展を見守っていただきました。初代理事長は設立から1966年までの2年間、やはり東大でアメリカ史がご専門の中屋健一先生でした。以後、理事長は南山大学の佐々木専三郎先生が1966年〜1979年、神奈川大学の大原美範先生が1979年〜1992年、ともに13年づつ務められて本学会の基盤を築かれました。そして、松本幹雄先生が1992年〜1998年の間、西島章次先生が1998年〜2004年の間それぞれ2期務められた後、小池洋一先生(2004 年〜2007 年)、山本純一先生(2007年〜2010年)、現在の浜口伸明(2010年〜現在)へと引き継がれています。

本学会は、設立において、政経学会と命名し、共通の方法論と問題意識、研究対象の相互関連性、という観点で、会員の対象を、経済(社会を含む)、法律、政治(外交を含む)の3分野の研究者および実務専門家に絞るという方針を示しました。この方針に対して、ラテンアメリカ地域を対象とする研究者全般に広く門戸を開くべきだという意見もあり、ずいぶん議論があったようですが、広い意味で社会科学に特化した団体という特徴は今日も受け継がれています。

会員の皆様のご努力により、近年本学会の会員数は増加し続けており、現在154名になりました。設立当初30名前後であった会員数が創立20周年のころに100名を超えました。1987年9月に日本学術会議に登録されたことで本学会も社会的なステータスを得ることができましたが、その条件の一つが会員数100名でしたので、当時の執行部の皆様は会員数増加にたいへん努力されました。学会誌『ラテン・アメリカ論集』についても、当初は毎年発行することが難しかったようで、2年ごとに発行されていた期間が6年間続いたこともありました。そうしたご苦労のおかげで本学会の基盤が築かれ、誇るべき伝統が形成されたのです。本学会が今年50周年を迎えることができましたのは、諸先輩のこうしたご尽力のおかげであり、このことに改めて敬意と感謝の念を表したいと思います。

本学会の会員がこれまで行ってきた研究成果は、CEPALの開発論の評価を含むラテンアメリカの工業化、経済発展、地域統合、所得分配、農業部門など構造問題に関する研究、インフレ、債務問題、金融危機などマクロ経済問題に関する研究、グローバル化と新自由主義に関する研究、内外の経済状況に対応した産業及び企業の研究、ポピュリズム、権威主義、コーポラティズムなど政治体制に関する研究、安全保障や外交に関する研究、憲法、会社法、経済関連法など法制度の研究、ラテンアメリカの人々と家族の教育、健康、生活に関する研究、先住民社会に関する研究、さまざまなレベルで展開される社会運動や住民組織化の研究、日本人の移住および日系人の出稼ぎに関する研究、など、多様なトピックがあります。本学会が発行している『ラテン・アメリカ論集』は我々が誇るべきこうした知の集積であり、他に類を見ないものです。

このたび、50周年を節目としてこれらの研究成果を取りまとめ、今後の研究の方向を展望するための手引きともなるべき記念出版『ラテンアメリカ社会科学ハンドブック』を多くの会員のご協力を得て出版することができましたことは、大変意義深いと思います。大変質が高い本ができたと自負しておりますが、単に記念として出版したことに満足するのではなく、この本が社会にラテンアメリカの魅力を広め、とくに若い読者の関心をこれまで以上にラテンアメリカに導く役割を果たようになることが重要な目的であります。大学での授業やゼミ、勉強会で教科書や副読本として積極的にご活用いただき、この本が1人でも多くの読者を得ることができれば幸いです。

最後に、次の50年に向けて、本学会が取り組むべき課題について述べさせていただきます。まず第1に、若手研究者のすそ野を広げることです。このことについて、本学会では2010年に全国大会で研究報告を行う学生会員の旅費を支援する制度を開始し、毎年2〜3人の学生会員に利用していただいています。そして今年50周年記念事業の一部として50歳未満の会員による優れた研究業績を表彰する研究奨励賞を設立しました。この研究奨励賞が若手研究者の目標・励みとなるように、会員各位のご支援をお願いします。

現在一方で大学のグローバル化が求められながら、ラテンアメリカ研究者の就職の機会は厳しいものがあり、学生にラテンアメリカ研究者を目指すことを躊躇させてしまいかねません。こうした状況に対して、本学会会員は今一段と奮起して、ラテンアメリカを研究領域として活性化させ、存在感を高めていく必要があります。このことは第2の課題として、ラテン・アメリカ政経学会として、他の学会との連携を強めつつ、ラテンアメリカ研究で積極的に大型の研究予算を獲得する努力が必要です。この予算は、海外の研究者との交流を進めたり、現地情報に密着した基礎的研究を大規模かつ継続的に続けたりして、我々の研究水準を引き上げ、さらに質の高い教育の機会を提供するために必要です。第3に、そのような研究費を受けられるような評価を与えられるために、これまで以上に積極的に良い研究成果を刊行してゆかなければなりません。学会誌『ラテン・アメリカ論集』をさらに活性化していくことが非常に重要であることは言うまでもありません。また、以前と比べて停滞している地域部会の活動を強化して会員間の連携を日常的に深めるとともに、学生や若手研究者を取り込んでいくことが重要です。

もちろん、精力的に研究成果を発表し、予算獲得に懸命に取り組むことだけが学会への貢献というわけではありません。必ず全国大会に参加してくださって若手を叱咤激励してくださるベテラン会員の皆様、しばらく学会から足が遠のいていても、活動を再開してくださる方、また大会にはご参加いただけなくても毎年きちんと会費を納めてくださって学会活動を支えてくださっている方。そうした様々な形でのご協力により、次の50年に向けて本学会の発展が続いていくものと確信しております。