ラテン・アメリカ政経学会研究奨励賞
日本におけるラテン・アメリカとカリブ地域並びに、これらの地域をルーツとする人びとに関する社会科学分野の研究の活性化と発展への貢献が大きいと認められる研究を顕彰することを目的として、「優秀研究賞」(JSLA賞)を2024年度に創設し、この賞に値する研究業績(著書もしくは論文)をあげた会員を表彰します。また、若手研究者を奨励することを目的として、著者が満 45 歳未満のときに公表した研究業績に対 して「若手研究奨励賞」を授与します。両賞ともに2年に一度の選考となり、第1回は2025年度に行います。推薦の募集については追ってお知らせします。なお、学会創立50周年を記念し2014年度に設置していた「研究奨励賞」(50歳未満の若手会員を対象)は、「若手研究奨励賞」に継承しました。【参考】ラテン・アメリカ政経学会研究奨励賞(JSLA賞)規程
2025年度ラテン・アメリカ政経学会優秀研究賞および若手研究賞の授与
第1回優秀研究賞および若手研究賞は、厳正な審査の結果以下の2名に決定し、第62回全国大会(2025年11月29日)で授与式が開催されました。
優秀研究賞
受賞者 :村上善道氏(神戸大学経済経営研究所教授)
研究業績:”Do deep regional trade agreements facilitate regional production networks in Latin American and Caribbean countries?” Review of World Economics (2025).
https://doi.org/10.1007/s10290-024-00579-9
《講評》
村上会員は、2014年に本学会の若手研究賞(旧研究奨励賞)を受賞(CEPAL在籍時に執筆の論文が対象)されているが、その後も貿易分野におけるデータ分析を軸として地道な研究を積み重ねてこられた。本論文は、ラテンアメリカ・カリブ地域における地域貿易協定(以下では、全てRTAと略して表示する)の「深さ」が域内の部品貿易で計測する生産ネットワークにどのような影響を与えるかを実証的に分析したものである。
論文が掲載されているジャーナルは、国際経済学に焦点を当てた世界初の学術誌として1913年に創刊された権威ある査読付き国際ジャーナルReview of World Economicsである。このような国際的なジャーナルに、本学会の会員の研究成果が掲載されたことは大変高く評価できるものであり、審査委員会としては優秀研究賞のカテゴリーでの表彰が妥当という結論に至った。
若手研究奨励賞
受賞者 :吉村 竜氏(高千穂大学人間科学部准教授)
研究業績:『果樹とはぐくむモラル—ブラジル日系果樹園からの農の人類学』春風社2024年。
《講評》
本書は吉村会員が2018年までにブラジル・ピラール市の日系果樹園生産者に関して行ったフィールドワークを基にした著作であり、また筆者の博士論文を基にしている。本書の課題は、農民研究のモラルエコノミー論を手掛かりに、果樹園経営をめぐる日系生産者の『モラル』の生成過程を社会的・経済的・文化的文脈の中で理解し、生産者・栽培作物・生態環境という三者関係の視点から、果物栽培における作物と人との対話的状況を生態的・技術的・歴史的文脈に即して考えることである。本書は、フィールドワークをとおして日系果樹栽培者の間にある連帯が、ネオリベラル言説が支配的な状況下で突き崩され、再建される様を描いている。そして、農民研究の分野においてネオリベラリズムと連帯の併存を指摘した点、また日系人研究の分野において日系人が共有するモラルの存在が日系人としての差異を許容している背景にあることを指摘した点で独創性がある。以上の本書が持つ独創性により、本書は若手研究奨励賞を受賞するに値する研究であると評価できる。
2025年度研究奨励賞選考委員会:宇佐見耕一(委員長)、幡谷則子、松井謙一郎
過去の受賞(所属・肩書は受賞時点)
2022年度 該当者なし
2021年度
大澤傑氏(愛知学院大学文学部英語英米文化学科講師)
授賞対象業績:『独裁が揺らぐとき―個人支配体制の比較政治』ミネルヴァ書房2020年。
2020年度 該当者なし
2019年度 該当者なし
2018年度
内山直子氏(東京外国語大学世界言語社会教育センター/特任講師)
授賞対象業績:
Uchiyama, Naoko. Household Vulnerability and Conditional Cash Transfers: Consumption Smoothing Effects of PROGRESA-Oportunidades in Rural Mexico, 2003−2007. Kobe University Social Science Research Series, Singapore: Springer, 2017.
2017年度
岡田勇氏(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)、水上啓吾氏(大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授)
授賞対象業績:
岡田勇『資源国家と民主主義―ラテンアメリカの挑戦』名古屋大学出版会2016 年。
水上啓吾『ソブリン危機の連鎖―ブラジルの財政金融政策』ナカニシヤ出版2016 年。
2016年度
近田亮平(日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員)
授賞対象業績:
(1)「労働者党政権下の社会的公正」『国際問題』No.645、2015 年 10 月号/(2)「岐路に立つ「新しいブラジル」の福祉レジーム」『福祉レジーム』新川敏光編、 ミネルヴァ書房2015 年/(3)「ブラジルの条件付現金給付政策―ボルサ・ファミリアへの集約における言説とアイディア―」『新興諸国の現金給付政策―アイディア・言説の視点から―』宇佐見耕一・牧野久美子編、研究双書 No.618、2015 年。
2015年度
宮地隆廣(東京外国語大学准教授)
授賞対象業績:
『解釈する民族運動ー構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析』東京大学出版会2014 年。
2014年度
村上善道(CEPAL-ILPES)
授賞対象業績:
“Trade Liberalization and Skill Premium in Chile.” México y la Cuenca del Pacífico, Nr. 6, 2014: 77-101.