ラテン・アメリカ政経学会

ラテン・アメリカ政経学会研究奨励賞

ラテン・アメリカ政経学会研究奨励賞は学会創立50周年を記念して2014年度に、日本におけるラテン・アメリカとカリブ地域並びにこれら の地域をルーツとする人びとに関する社会科学分野の研究の活性化と発展のため、 そして、とくに若手研究者の研究を奨励することを目的として設置されました。各暦年に50歳未満の会員が刊行した著書・論文の中から、会員の推薦を受けて選考委員会で特に優れていると評価された研究業績に対して授与されます。【参考】ラテン・アメリカ政経学会研究奨励賞(JSLA賞)規程

 

2016年研究奨励賞受賞者の決定について

2016年受賞者: 近田亮平氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員)

授賞対象業績:(1)「労働者党政権下の社会的公正」『国際問題』No.645(2015 年 10 月号、(2)「岐路に立つ「新しいブラジル」の福祉レジーム」『福祉レジーム』新川敏光編 著、ミネルヴァ書房、2015 年、(3)「ブラジルの条件付現金給付政策―ボルサ・ファミリ アへの集約における言説とアイディア―」『新興諸国の現金給付政策―アイディア・言説の 視点から―』宇佐見耕一・牧野久美子編、研究双書 No.618、2015 年。

授賞理由:上記3 点の研究業績は、世界で注目を集める新たな条件付き現金給付であるブラジルの「ボルサ・ファミリア(以下、BF)」を分析したものである。3 点をまとめてブラジルの社会政策を多面的に分析した業績とみなす。いずれも、福祉国家論における新たなアプローチである「言説的制度論」を用いつつ、BF の発展過程を分析している。貧困と格差の顕著なブラジルで、大統領主導で導入されたBF が正統性を確立するために、大統領が強調した言説が重要な役割を果たしたことを近田氏は論じている。BF を中心に据えるブラジルの社会扶助は、同国の格差是正、および貧困削減に一定の役割を果たした一方で、その不完全性ゆえに近年の抗議行動の一端となった点も指摘して、ブラジルの社会福祉のあり方が、政治・社会に大きな影響を与えていることを示唆している。以上の理由から、近田氏の業績は、ブラジルが抱える問題を解明するための重要な学術的貢献を行っていると評価できる。 主論文と考えられる(3)は、BFを中心とするブラジルの社会福祉政策を「言説的制度論」の分析枠組みを援用し、ルセフ政権の「政策優先度の見誤り」に対する不満等の内政面のみならず、外交という側面からも考察した「総合的な研究」であり、社会福祉政策に言説分析を応用するという新規性と綿密な分析について高く評価する。しかし、政策過程分析として理論への貢献と実証的な説得力が十分でないという点は今後の課題であろう。業績(1)については、経緯に関して事情報告的な結論となっている点に物足りなさを感じる。業績(2)では、BFを議会で承認させるためにルーラ大統領が行ったマクロ効果を訴える言説が国際機関で言われる条件付き現金給付CCTの評価と矛盾するという興味深い問題を指摘している. 近田氏は、過去に日本人研究者が見誤ってきたブラジルの政治・社会の現状を現地ブラジルの研究者の意見に基づき総合的に分析しており、地域研究の視座からの今後の研究に期待が持てる。

2016年度研究奨励賞選定委員 山本純一、安原毅、住田育法(委員長)

過去の受賞者(所属・肩書は受賞時点)

  • 2015年

    宮地隆廣(東京外国語大学准教授)

    授賞対象業績:

    『解釈する民族運動ー構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析』 (東京大学出版会)

  • 2014年

    村上善道(CEPAL-ILPES)

    授賞対象業績:

    Trade Liberalization and Skill Premium in Chile”Mexico y la Cuenca del Pacifico, Nr. 6, 2014: pp. 77-101.